高松高等裁判所 昭和54年(ネ)38号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判旨】
二 控訴人は、当審における鑑定人浜田日佐夫の鑑定結果が「本件交通事故と被害者の病状との因果関係がありとするにはその根拠が薄弱であるが全くないとはいいきれない」とあるところから、控訴人の被害者に対する治療が異常であつたとしても、本件事故と被害者の症状との因果関係が否定できない以上主治医はその治療をなすべき義務があるから本訴請求は理由があると主張しているが、当審における鑑定人浜田日佐夫の鑑定結果と同鑑定人尋問の結果によれば、控訴本人の経営する井上病院が本件被害者につけた傷病名は頸椎、腰椎、左膝部挫傷となっているところ、挫傷とは鈍性外力が作用した場合に生ずる皮下軟部組織の損傷により局所の発赤、腫脹、疼痛等を生ずるもので、外力の作用、部位により程度の差はあるが、概ね数日ないし数週間で治療するものなるところ、本件事故状況からして被害者に年余に亘り右挫傷未治療の状態が続くとは考えがたいといつていること、控訴本人は被害者に与えた傷病名の頸椎挫傷をむちうち症であると述べているが、本件被害者は受傷当時頸部に過伸展、過屈曲を強制されるような強い外力を受けたとは思われないこと等から本件患者をむちうち症とみることに疑問がある、成書はむちうち症の中には受傷後一か月后の発現もあり得るが受傷後二、三日ないし一週間以内に発症するのが一般であるとしているのに、本件被害者は受傷後一か月も経過してから頸部痛、頸部運動制限が出たといつているの判旨は不自然である、成書はむちうち症の軽症は一、二か月、重症でも六か月ないし一年の治療期間が一般的であると述べているから本件被害者の場合の四年間余の入院治療は極めて異例のことであると述べていること及び右各異例の症状継続を不当とする積極的な医学上の根拠はないが、逆にこれを正当とする積極的な根拠もないとしていることからすると、鑑定の結論に、「本件交通事故と被害者の症状との因果関係が全くないとはいい切れない」とある部分は本鑑定に於て、無視してよい程度の意味しかないことが認められるので、この文言の故に本件事故と被害者に対する控訴人の本件診療との間に因果関係があるという控訴人の主張は採用できない。
(菊地博 滝口功 川波利明)